mattyuuの数学ネタ集

世界は数式で溢れている

オイラーからの贈り物~ゼータのDNA~

10/20にマスパーティ内で行われたロマンティック数学ナイトプライム@ゼータ(以下、ロマ数ゼータ)に登壇させていただきました。マスパーティは30時間にわたって様々な数学の楽しみ方を紹介していくという数学イベントです。そんなぶっとんだイベントを成功させたマスパーティ主催のキグロさん、tsujimotterさん、ロマ数ゼータ主催のねげろんさん、司会のタカタ先生、その他スタッフ、登壇者の皆様に勝手に厚く御礼を申し上げます。

mathparty.localinfo.jp

今回のロマ数ゼータは\zetaのことを知らない人からゼータの玄人の方まで楽しめるように、プレゼンを第1部、第2部、第3部にわけており、各部のコンセプトを下記のように定めていました。

  • 第1部:ゼータ関数を聞いたことがない人でも楽しめるような、初心者に寄り添ったプレゼン
  • 第2部:整数論に限らない一風変わったゼータの世界を楽しめるプレゼン
  • 第3部:ディープなゼータの世界に誘うような高度なプレゼン

私は第1部のトップバッターということで、ゼータ関数歴史から、定義魅力を一気に紹介しました。本記事では私がプレゼンした内容をほとんどそのままの形で掲載します。自分的にはほとんど数式を出していないつもりでいますので、、、数学が苦手な方も気楽に読んでみて下さい。本記事がゼータ関数に興味を持つきっかけになってもらえたら嬉しいです。

それでは、はじまり、はじまり

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オイラーからの贈り物というタイトルで発表させていただきます。よろしくお願いします。

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今回はロマンティック数学ナイトプライム@ゼータですが、ゼータを知らない方も多いと思いますので、ゼータが何者であるかわかるように紹介させていただきます。

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ゼータ関数の名付け親は19世紀にドイツで活躍したリーマンです。リーマンは1859年の記念碑的論文「与えられた数より小さい素数の個数について」にて、\zetaというギリシャ文字ゼータ関数を書き表しました。この論文では、ゼータ関数を詳しく調べると素数の分布がわかるという驚くべき事実が証明されていました。またこの論文内のコメントから、有名なリーマン予想が誕生しています。

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ゼータ関数の名付け親はリーマンですが、生みの親は18世紀にスイスで活躍したオイラーではないかと思います。オイラーは様々な分野で多大な業績を残す大数学者ですが、後の時代にゼータ関数と呼ばれる関数の研究も行っていました。その関数がリーマンによってゼータ関数と名付けられたことは先述のとおりですが、名もない関数がなぜ時代も国も違うリーマンの研究対象になったのでしょうか。それはオイラーが見つけたゼータ関数の性質がリーマンの琴線に触れたからに違いありません。このゼータ関数の性質を、「(ゼータの)4つのDNA」と勝手に名付け、1つずつ紹介していきます。

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そもそもゼータ関数とは何でしょうか。ゼータ関数は"関数"です。関数とは数を入れたら数が出てくる装置です。例えば高校時代f(x)=3x+5といった関数を習ったと思います。これは1を入れたら8が、2を入れたら11が出てくる関数であり、たしかに数を入れたら数が出てきています。ゼータ関数もただの関数なので難しく考える必要は全くありません。ゼータ関数が何者であるかは、数xを入れたときに、何が出てくるかがわかればよいことになります。

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ゼータ関数は数xを入れると、自然数x乗分の1という形をした分数を、全ての自然数に渡って足し合わせた数を出す関数として定義されます。定義はいたってシンプルですが、このシンプルな関数がとても重要で、面白くて、愛すべき関数なのです。

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実はオイラー以前にも後にゼータ関数と呼ばれる関数の研究は始まっていました。14世紀のフランスでは、1+1/2+1/3+1/4+\cdotsという足し算が無限大になるという事が証明されました。この足し算は調和級数と呼ばれるものです。足す数は1/1\mbox{兆}1/1\mbox{兆}11/1\mbox{兆}2のようにどんどん0に近づいていくにもかかわらず無限大になるという少し不思議な足し算です。

このことをグラフで確認してみましょう。グラフのピンク色の線はこの足し算が増えていく様子を表しています。足す数が小さくなっていくため、ピンク色の線の増え具合はどんどん小さくなっていき、徐々に横軸に対して平行になっていきます。グラフの上部にピンク色の線が超えないと思われる壁(水色の線)を用意しても、足し算を続けていくといつかはピンク色の線が壁を追い越します。さらに大きい壁を用意してもやはりピンク色の線は壁を追い越すのです。

この足し算の分母には「1乗」が隠れており、これはゼータ関数1を入れたものと見ることができます。つまり14世紀フランスでは\zeta(1)=\inftyであることが証明されていたのです。

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時は流れ17世紀スイスではベルヌーイ一家が1+1/2^2+1/3^2+1/4^2+\cdotsの値を求めようと躍起になっていました。この足し算は先ほどの調和級数と違い、絶対に超えられない壁が存在し、その壁の値が2があることは簡単に証明されていました。壁があるという事は何かに近づいていくはずで、手計算の結果1.64くらいになることはわかるのですが、その値が何なのかわかっていなかったのです。この足し算はゼータ関数2を入れたものなので、ベルヌーイ一家は\zeta(2)の値を求めようと頑張っていたという事になります。そしてこの問題を解いたのが18世紀にベルヌーイ一家にもよくお邪魔していたオイラーだったのです。この問題はオイラー、ベルヌーイ一家の故郷の地名にちなんでバーゼル問題と呼ばれています。

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それではゼータのDNAの1つ目「特殊値」を見ていきましょう。

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1735年オイラーは円の弧(s)、余弦(x)、正弦(y)の間に成り立つ関係式をいじっているうちに、まったく思いがけず\zeta(2)=1+1/2^2+1/3^2+1/4^2+\cdotsの値にたどり着きます。その値はなんと
\displaystyle
\frac{\pi^2}{6}
になります。これは誠に驚くべきことで、小学生でも理解できて、円とは全く関係のないように見える分数の足し算の先に、\piが現れるのです。

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実際にグラフで確認してみます。バーゼル問題の説明に用いたグラフに\pi^2/6のオレンジ色の壁を追加すると、ピンク色の線がオレンジ色の壁にぴったり重なっていく様子が確認できます。これは1+1/2^2+1/3^2+1/4^2+\cdots\pi^2/6に近づいていっているということに他なりません。\zeta(2)=\pi^2/6にたどり着いたオイラーの喜びは相当なものだったと想像します。

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1+1/2^2+1/3^2+\cdots + 1/n^2にて、nをどんどん大きくすると、その値が\pi^2/6に近づいていくという事は、それを6倍してルートをとった\sqrt{6\left(1+1/2^2+1/3^2+\cdots + 1/n^2\right)}\piに近づいていくということを意味します。実際に表を作って確認するとnを大きくするにつれて\pi=3.14159...に近づいていく様子が確認できます。つまり円も図形も書かずに自然数から円周率が計算できるのです。これは自然数と円周率の間には密接な関係があること、そしてその間をゼータが取り持っているという事を意味しています。

特殊値とは\zeta(2)=\pi^2/6のようにゼータ関数に整数などの代表的な数を入れたときに出てくる、それなりに綺麗な値のことです*1ゼータ関数の特殊値に\piなどの重要定数が現れることがあり*2、そのことがゼータ関数の重要性を現わしています。

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オイラー\zeta(2)だけでなく、他の正の偶数に対しても\zeta(\mbox{偶数})の値を得ていました。それは「自然数」÷「自然数」の形をした分数と\piの(ゼータ関数に入れた)偶数乗の積で表せます*3。また分子の自然数部分に注目すると\zeta(2)から\zeta(10)まではずっと1だったにもかかわらず、\zeta(12)で急に691という大きな自然数が出てきており、より深い数学の話とつながっています。こちらに関してはtsujimotterさんのブログを読んでみて下さい。

tsujimotter.hatenablog.com

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次にゼータ2つ目のDNAである「オイラー積」の紹介をします。

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古来から多くの数学者に愛される数、それは素数です。素数は「1と自分自身しか約数を持たない2以上の自然数」ですが、それは2357111317192329313741434753596167717379838797、、、と不規則に現れます。また、たとえば連続して1000個の自然数素数でないような素数砂漠も存在します*4

上述のとおり素数は一見、不規則で無秩序のように見えるのですが、数学者たちは長い歴史の中で素数達が織りなす美しい秩序を発見してきました*5。そしてオイラーも1737年に美しい秩序を発見するのです。

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ゼータ関数は「自然数の和」の形のように表せるとお話ししたのですが、なんと「素数の積」の形でも表せます。これをゼータ関数オイラー積表示と呼びます。

例えばx=2とすると\zeta(2)=\pi^2/6なので、次の式が成り立ちます。

\displaystyle
\frac{2^2}{2^2-1}\times \frac{3^2}{3^2-1} \times \frac{5^2}{5^2-1} \times\cdots = \frac{\pi^2}{6}

素数から作られる分数の掛け算を続けていくと円周率\piが現れるというのは本当に驚きです!

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先ほど得た式を変形することで、\sqrt{6\left(2^2/(2^2-1)\times 3^2/(3^2-1) \times 5^2/(5^2-1)\times \cdots \times p^2/(p^2-1) \right)}にて素数pを大きくすればするほど、\piに近づいていくという事がわかります。表を作って確認すると、確かにその通りになっています。昔東大の入試問題で「円周率が3.05より大きいことを証明せよ」というものがありましたが、この関係式を使うとたった4個の素数に対して簡単な計算をすることで証明できることが分かります。

ゼータ関数オイラー積表示によって素数と円周率の間にも密接な関係があることがわかりました。ゼータ関数の背後には数学者たちを魅了して止まない素数が潜んでいる。これこそゼータ関数の最大の素敵ポイントです!

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次のDNAは関数等式です。

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関数等式を数式で書くとこのように難しいように思えるのですが、そこは理解する必要はありません。大事なポイントは\zeta(x)の値が分かれば\zeta(1-x)の値がわかるという事です。

オイラーのおかげで私たちはゼータ関数に正の偶数を入れたときに出てくる特殊値を知っています。関数等式を使うことでまだ見ぬゼータ関数の特殊値を知ることができ、なんとそこには不思議な足し算が現れるのです。

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実際に関数等式においてx=2としてみると、簡単な計算で\zeta(-1)=-1/12であることが分かります。どこが不思議なのでしょうか?

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ゼータ関数の定義に戻ってみると\zeta(-1)は1+1/2^{-1}+1/3^{-1}+1/4^{-1}+\cdotsと表せますが、-1乗というのは逆数をとることなので、この足し算は1+2+3+4+\cdotsとなります。つまり\zeta(-1)=-1/12という式は、1+2+3+4+\cdots=-1/12を意味しているという事になります。0より大きいものを足していって、負の数が現れる、しかも自然数を足しているのに分数の形で現れる。何とも不思議ではないでしょうか?

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オイラーは他にも不思議な足し算をたくさん見つけています。「オイラー頭おかしくなったんじゃない?」って思ってしまいますが、オイラーは論文の中で「和についてさらに拡張した定義を与えなければならない ~(中略)~ それは解析的な手法で展開することによって同様な級数を導き~」と述べており、これは後の時代に「解析接続」と呼ばれる理論をオイラーが強く意識していたことに他なりません。オイラーの先見の明に驚かされます。

関数等式によってゼータ関数から不思議な足し算が現れました。これもゼータの魅力の一つです。また、関数等式は\zeta(x)\zeta(1-x)の対称性を表しているのですが、これはリーマン予想と強く関係しています。

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1+2+3+4+\cdots=-1/12という式は、本当に不思議な足し算ですが、どうやら量子物理の世界では現象として観測できるそうです。この辺りは全く詳しくないので完全に紹介程度になるのですが、1+2+3+4+\cdotsの足し算は{\rm lim}\sumという記号を使う事で、別の形で書き表すことができます。数学に詳しい方は
x0に近づけることで黄色で塗った部分が1に近づくこと、したがって左辺と右辺が一致することが分かるでしょう*6。この右辺においてx=0.01と固定し、\sumの足し算をしていくにつれて値がどう変わるのかをグラフで可視化してみます。

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すると、最初の方では1+2+3+4+5+\cdotsと同じスピードで増えていくのですが、次第に増え方が減っていき、200個くらい足した辺りから減り始めます。また450個くらい足した辺りから増え始めており、上下に揺れながら0に近い値に近づいていることがわかります。

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3000個くらいまで足してみても、確かに何らかの値に近づいているようです。そこでグラフの黄色い部分を切り出し、上下に拡大してみます。

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グラフにオレンジ色の直線で-1/12のグラフを書き加えると、グラフの右側ではピンク色の線とぴったり一致します。ちょっと強引な式で1+2+3+4+\cdotsを別の形で表したのですが、その式のグラフが-1/12に近づく。。。近づけと一言も言っていないのに近づいている、近づいてしまう!これは1+2+3+4+\cdots=-1/12が正しそうと裏付ける証拠になっているのではないでしょうか。

この等式に関しては、こちらのサイトを参照させていただきました。\zeta(-1)だけでなく、\zeta(-2)\zeta(-7)まで計算したのですが、たしかにオイラーによって求められた特殊値に近づいていくことが確認できました!
xseek-qm.net

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じつは関数等式からもう一つ面白いことが分かります。x3以上の奇数とすると、\cos{(\mbox{奇数}\pi/2)}=0より、ゼータ関数の負の偶数での値が0であることがわかります。これは自明な零点と呼ばれるもので、リーマン予想にもつながるとても重要なものになります。

ゼータ関数の零点に関しては昔手計算したことがありますので、良かったらこちらも参考にしてください。
mattyuu.hatenadiary.com

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最後のDNAは積分表示です。

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積分表示はゼータ関数解析学の代表的な言葉である積分の形で表すことができるというものです。リーマンは「リーマン積分」や「コーシー・リーマンの方程式」など解析学に多くの業績を残した解析学の分野の権威であったため、ゼータ関数がリーマンが扱いやすい形に表示できているという事になります。実際1859年のリーマン予想が生まれた論文は、この積分を変数変換した数式が出発点になっています。

以上で、ゼータ関数の4つのDNAの紹介を終わります。

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さてプレゼンタイトルの「オイラーからの贈り物」というのはオイラーが発見し、リーマンが受け取ったゼータ4つのDNAを意味していました。実はリーマンに贈り物を送ったのはオイラーだけではありません。それはリーマンの少しだけ前の時代に活躍し、同じドイツ、同じゲッティンゲン大学でリーマンと交流もあった大数学者ガウスです。ガウスがリーマンに送ったものそれは素数階段です!リーマンはオイラーガウスという大数学者から贈り物をもらい、独自に研究し1859年の論文が完成します。その論文の中で「リーマン予想」が誕生するのですが、160年経過した今でも証明されていません。リーマン予想はリーマンから私たちへの贈り物です。

リーマンは1859年の論文にてゼータ関数の零点を知ることで素数の分布がわかる(=素数階段が再現できる)ということを証明しています。そちらに関してはやはりtsujimotterさんのブログを読んでください。
tsujimotter.hatenablog.com


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今回はゼータ関数0から説明したわけですが、実は大きな嘘がありました。本記事でゼータ関数として紹介してきたものは、「リーマン・ゼータ関数」と呼ばれるものです。実は他にもゼータ関数はたくさんあり、ロマ数ゼータでも多数紹介されました。では、ゼータをゼータたらしめるものは何でしょうか。

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実はどういう関数をゼータ関数と名付けてよいのかははっきりとした決まりがなさそうです。ゼータ関数を研究されている数学者の方々が「ゼータは人の心を魅了するもの」、「ゼータ惑星の生き物」と述べているように、数学者にとってもゼータは捉えようがなく、不思議で心ときめくものなのでしょう。しかし1つ言えることはどんなゼータ関数も今回述べたような4つのDNAをだいたい持っていることです。
例えば、


オイラー」のような形で定義された新しいゼータ関数が、「積分表示」によって研究しやすい対象になり、「特殊値」が重要な数学定数と結びつくことで心ときめき、「関数等式」の対称性によってクリティカルラインが得られ、そのゼータ関数リーマン予想が定式化される。
と言った具合でしょうか。

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ロマ数ゼータの他の方々のプレゼンにも今回紹介した4つのDNAが何度も登場しましたし、後で気づいたのですがロマ数ゼータのロゴにも全てのDNAが登場していました!

以上で、プレゼン内容の紹介を終わります。今回紹介した内容は本当にゼータの不思議な世界の入り口にすぎません。まだまだ楽しい話はいくらでもあるので本文中に参考に挙げた記事や、ロマ数ゼータの他の方のプレゼンをYouTubeで見てみて下さい(4:43:40あたりからロマ数ゼータが始まります)。


Part 3: 数学の楽しみ方の見本市「マスパーティ」(10/20 10:45 ~ 19:30)

また、難しく感じた方は\zeta(2)=1+1/2^2+1/3^2+1/4^2+\cdots=\pi^2/6になることだけでも心にとどめてくれたら嬉しいです!実はマスパーティの参加者、スタッフ、登壇者に配られた缶バッジの背景には\zeta(2)\zeta(3)\zeta(4)の値が刻まれていました。宝物にします!

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最後に、本記事は黒川信重先生の下記書籍を参考にさせていただきましたので、紹介させていただきます。

オイラー《ゼータ関数論文集》

オイラー《ゼータ関数論文集》

*1:厳密な定義はないように思えます。

*2:リーマン・ゼータ関数だけではなく、他のゼータ関数に対しても言っています。

*3:それはベルヌーイ数を用いることで一般的に書けるのですが、バーゼル問題を解けなかったベルヌーイ一家が導入した数で一般的に書けるという所に面白さを感じます。

*4:任意の長さの素数砂漠が存在することは簡単に示せます。

*5:2つ目の例は算術級数定理ですが、{\rm gcd}(a,b)=1という前提までは書いていません。

*6:といっても極限操作が2つあるので、単純な話ではないと思いますが。

若き日のフレンケル教授が証明したもの

この記事は、日曜数学 Advent Calendar 2018 - Adventar 22日目の記事です。

まず最初に投稿が遅れてしまったことをお詫び申し上げます。来年アドベントカレンダーに参加する場合は、11月時点で書く内容が固まっているテーマで登録させていただきます。申し訳ありませんでした。

はじめに

今回日曜数学のアドベントカレンダーのテーマを考えている中で頭に思い浮かんだものがエドワード・フレンケル教授著の「数学の大統一に挑む」でした。

数学の大統一に挑む

数学の大統一に挑む

概要をAmazonから抜粋すると下記の通りとなっており、フレンケル教授の幼少からの成長を描写しながら、教授が直面した数学の概念を一般向けに解説する形となっています。

憧れのモスクワ大学の力学数学部の試験に全問正解したにもかかわらず父親がユダヤ人であるために不合格。それでも少年は諦めず、数学を学び続けた。「ブレイド群」「リーマン面」「ガロア群」「カッツ・ムーディー代数」「層」「圏」…、まったく違ってみえる様々な数学の領域。しかし、そこには不思議なつながりがあった。やがて少年は数学者として、異なる数学の領域に架け橋をかける「ラングランズ・プログラム」に参加。それを量子物理学にまで拡張することに挑戦する。ソ連に生まれた数学者の自伝がそのまま、数学の壮大なプロジェクトを叙述する。

この本は発売時に購入して読んだのですが、その時から心にひっかかっていたものがあります。それは大学生になったフレンケルが挑んだ数学の未解決問題についてです。

人種差別によりモスクワ大学に入学できなかったフレンケルですが、フェンスを乗り越えてでもモスクワ大学に侵入し、数学の授業を受けていました。そんな熱意を買われたのか世界的数学者ヴァルチェンコから有名数学者フックスとの共同研究を勧められます。大学入試で絶望にフレンケルに奇跡のような出来事であり、実際にフックスに会い、読むべき論文を手渡された場面では、

わたしは聖杯を授かったような気持だった

という描写がされています。数学の論文を聖杯と例える気持ちは数学好きであれば分かるのではないでしょうか。この本にはこういった美しい描写が随所に現れており、読むと心がときめきます。

フレンケルはおよそ2カ月をかけてこの未解決問題を解決します。様々なアプローチを試し、ついに問題が解けた瞬間は、

ところが突如として、まるで黒魔術でも使ったかのように、すべてが明らかになった。一挙にジグソーパズルが組み上がり、美しくエレガントな絵の全貌が現れたのだ。あの瞬間のことを、私はけっして忘れないだろう。あの経験は永遠に、わたしの宝物であり続けるだろう。

と描写されています。どうですか?こんなに熱い描写をされると、フレンケルが証明したものが何か気になりませんか?

この本はあくまで一般書であり、細かい数式は出てきません。私はフレンケルが証明したものを数学的に理解せずに読んでいたため、何を証明したのだろうという事がずっと心にひっかかっていました。

今回の記事の内容と今後の展望。。。

ということで、21才のフレンケルが証明したものを紹介したかったのですが、フレンケルの論文(たった3ページ!)を購入し、実際にその分野(代数的トポロジー)の数学を調べてみるとわからない用語が多すぎて理解できませんでした。ただそれでは悔しいので勉強を続けながら何回かの記事に分けて紹介させていただきます*1

そこで今回は、
・フレンケルが証明したもの
・なぜそれが重要か
ブレイドB(n)とその交換子群B^{\prime}(n)
・判別式が0でない多項式の空間の基本群
について紹介したいと思います。

フレンケルが証明したもの

フレンケルが証明したもの、それはブレイドB(n)の交換子群B^{\prime}(n)のベッチ数でした。

k\neq 1nの約数の時、q=n(k-1)/kとして
{\rm dim} H^{q}(B^{\prime}(n);\mathbb{C})=\varphi(k)

k\neq 1n-1の約数の時、q=(n-1)(k-2)/kとして
{\rm dim} H^{q}(B^{\prime}(n);\mathbb{C})=\varphi(k)

驚くことはこんなところにもオイラー\varphi関数が現れることです。フレンケルも

その答えは予想もしなかったもので、フックスと私が考えていた以上に興味深いものだった」と語っています。

ただ、私のレベルではこの結果を見ても疑問がわきます。
・ベッチ数はホモロジーH_k(X)のランクで定義されるのではないか?
・「群のコホモロジー」のwikipediaを見ると群GG加群Mに対して、コホモロジーH^k(G,M)を定義するが、{\mathbb C}へのB^{\prime}(n)の作用がそもそもどう定義されるかがわからない。

前者に関してはポアンカレ双対 - Wikipedia

が、後者に関しては普遍係数定理 - Wikipediaが絡んでいる気がするのですが、今時点では私の理解が全く及んでいません。。。全く思い違いの解釈をしているかもしれません。今後の勉強で明らかにしていきます。

主張すら理解できないのは本当に情けないですが、勉強するきっかけになるのでよかったと強がっておきます。

フレンケルが証明したものの重要性

ここも現時点での私の解釈です。間違っている可能性もあります。

まず最初に「数学者は様々な位相多様体を位相不変量によって分類したい」という根源的な欲求を持っているとさせていただきます*2

次に最高次の係数が1で相異なるn個の複素数解をもつ複素係数多項式全体の集合をV^{n-1}とします。つまり、

V^{n-1}=\{z^n+v_{n-1}z^{n-1}+\cdots + v_1z+v_0|v_i\in {\mathbb C}, \Delta(f)\neq 0 \}

です。ここで\Delta多項式に対してその判別式を返す関数です。多項式が重解を持つことと多項式の判別式が0になることが同値のため、このように書けます。

多項式は昔から数学の世界で活躍してきましたし、重解の有無も多項式の重要な性質になりますので、このような空間がどのような空間なのかを研究したくなる気持ちはわかるでしょう。

V^{n-1}の元はその解となるn個の相異なる複素数を指定することで一意に決まりますから*3V^{n-1}は順序を持たない互いに異なるn個の複素数の組全体からなる空間と同一視できます。実際に位相を入れて証明していないですが、V^{n-1}が複素n次元の位相多様体になることは明らかでしょう*4

また、V^{n-1}は判別式が0でない多項式全体の空間ですが、そうなると判別式がある特定の値kであるようなV^{n-1}の部分空間(ここではV_k^{n-1}と書く)がどのような空間であるかということにも興味がわくでしょう。

そのような興味の下、フレンケルが証明したものの重要性がわかるストーリーは下記の通りです*5

  1. V^{n-1}V_k^{n-1}を詳しく知りたい!
  1. 位相多様体を詳しく知ること、それは位相不変量を知ることだ!
  1. ということでV^{n-1}V_k^{n-1}のベッチ数(←位相不変量)を知りたい!
  1. ベッチ数を知るためにはホモロジー群を計算する必要があるが、ホモロジー群の計算は大変だ!困った。
  1. 一般に群Gに対して位相空間Xがある条件を満たすとき、XGの分類空間と呼ぶのだが、なんとV^{n-1}B(n)の、V_k^{n-1}B^{\prime}(n)の分類空間になっている!
  1. Gコホモロジー(ベッチ数)を求めることでその分類空間Xコホモロジー(ベッチ数)がわかるという一般的な理論がある。
  1. なのでB(n)B^{\prime}(n)コホモロジーを知りたい!

本記事の残りではまだ定義すらしていない謎の群B(n)B^{\prime}(n)を紹介します。その後B(n)B^{\prime}(n)がそれぞれV^{n-1}V_k^{n-1}の基本群になっていることを直感的に説明します*6。その動機としてはXGの分類空間となる必要条件として、Xの基本群がGと同型になることがあるためです。

ブレイド群とは

n次のブレイドB(n)\sigma_1\sigma_{n-1}を生成元とし、その生成元の間に下記の2種類の関係を入れたものになります。

  • \sigma_i\sigma_{i+1}\sigma_i=\sigma_{i+1}\sigma_{i}\sigma_{i+1} (ただし、i=1,2,\cdots,n-2)
  • \sigma_i\sigma_j=\sigma_{j}\sigma_{i} (ただし、|i-j|>1)

これは下記のように考えると視覚的に理解できる群になります。
2枚の板にそれぞれn本のくぎを打ちつけ、板とは別にn本の紐を用意します。「同じくぎに2本以上の紐を結ぶこと」、「紐が自分自身と交差すること」を禁止し、2個の板をn本のひもで結びます。その紐の結び目の様子*7B(n)の元が1対1に対応します。この2枚の板とn本の紐の組をブレイドと呼ぶことにします。

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2つのブレイドの和及び、\sigma_iに対応するブレイドに関しても次の図のように定めることで、演算も含めてB(n)ブレイドの集合が完全に対応します。

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そう考えると次のように生成元の間の関係も視覚的に理解できます。元々B(n)ブレイドとして誕生し、その本質がn-1個の生成元とその間の関係式という形で改めて定義されたのです。

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ブレイド群の交換子群

一般に群Gに対してその交換子群[G,G]は以下のように定義されます。

[G,G]=\langle ghg^{-1}h^{-1}|g,h\in G\rangle

フレンケルの論文ではブレイドB(n)の交換子群をB^{\prime}(n)という記号で表しています。ブレイドB^{\prime}(n)の元であるか否かを視覚的に判定することができます。

ブレイドの各交わり点について、左の紐が右の紐の上を交差する場合に+1、そうでない場合に-1を対応させます。その総和(交わり数と呼ぶ)をとったものが0であることと、そのブレイドB^{\prime}(n)の元であること、は同値になります。

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\sigma_iは左の紐がその右の紐の上を通って交差する」、「\sigma_i^{-1}は左の紐がその右の紐の下を通って交差する」と見なせること、またf(\sigma_i^{-1})=-1であることからB^{\prime}(n)f(\sigma_i)=1で定義される準同型(f:B(n)\rightarrow {\mathbb Z})の\rm{ker}ではないかと予想されるのですが、それは実際正しいです。

ということでB^{\prime}(n)=\rm{ker}(f)を示したいと思います。

B^{\prime}(n)の生成元はghg^{-1}h^{-1}の形をしていることから、B^{\prime}(n)\subset \rm{ker}(f)は明らかです。

逆にB^{\prime}(n)\supset \rm{ker}(f)は、下記の関係式を用いて[\rm{ker}f]の元を生成するための生成元の個数(2m)に関する数学的帰納法で証明できます。

  • \sigma_i\sigma_{i+1}^{-1}=\sigma_{i+1}^{-1}\sigma_{i}^{-1}\sigma_{i+1}\sigma_{i}
  • \sigma_i^{-1}\sigma_{i+1}=\sigma_{i+1}\sigma_{i}\sigma_{i+1}^{-1}\sigma_{i}^{-1}
  • \sigma_a\sigma_b^{-1}=\sigma_a\sigma_{a+1}^{-1}\sigma_{a+1}\sigma_{a+2}^{-1} \cdots \sigma_{b-2}\sigma_{b-1}^{-1}\sigma_{b-1}\sigma_{b}^{-1} ただし、(a < b)
  • \sigma_a^{-1}\sigma_b=(\sigma_a\sigma_b^{-1})^{-1}

という事でB^{\prime}(n)がどのような群かがわかりました。

V^{n-1}の基本群がB(n)になること

V^{n-1}複素平面上の相異なるn個の点からなる空間とみなせました。複素平面を板、相異なるn個の複素数をくぎとみなすことで、V^{n-1}内の閉路はブレイドと同一視できます。閉路は通常t\in[0,1]というパラメータで表せるため、t=0に対応するのが上の板、t=1に対応するのが下の板と考えます。閉路であるため上の板と下の板のくぎは全く同じところに刺さっています。

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ひもは各複素数の点がどう移動するかを表します。紐が1点で交わることはありません。もし交わってしまうと二つの点が同じ複素数になってしまい、判別式が0になってしまうからです。

閉路の連続変形は紐をくぎから外すことなく行う事の出来る変形に対応します。そう考えるとV^{n-1}の基本群がB(n)になりそうな気がしますね*8

V_k^{n-1}の基本群がB^{\prime}(n)になること

V^{n-1}上の閉路はn個の点(多項式の解)を互いに重ならない限り自由に動かすことができました。つまり対応するブレイドの紐も好きなように動かせたのですが、V_k^{n-1}多項式の判別式の値がkであるという強い制約があるため、n個の点を自由に動かすことができません。n-1個の点を決めると残りの1個の点の候補は限られます。

閉路ではどの点も連続的に動く必要があります。そのことを考慮すると、出発点となるn個の点を決めたとき、各t\in[0,1]n-1個の点を決めると残りの1個の点の位置は一意に決まります。ブレイドで考えるとn-1本の紐を自由に絡ませたときに、残りの1本の紐の動きは一意に決まってしまい、最終的に完成するブレイドの交わり数は0になります。つまり基本群がB^{\prime}(n)になるのです。ただこれについては全く証明ができず、数値実験するにとどまりました。今後の勉強でしっかり証明したいです。

数値実験の例です。-101を解とする方程式z^3-z=0に対して、私が人為的に01に動かす赤い紐、1-1に動かす緑の紐を作り、判別式一定の条件で決まる青の紐を計算して可視化しました。2つめはちょっと難しいですが交わり数が0になっていることがわかります。

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違ったアングルからの写真も面白いです。

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続き頑張ります!

*1:遅くても来年中には終わらせたいですが、数学は果てしないので約束はできません。ただやるといったらやります

*2:「なぜ分類したいのか?」となぜなぜを続けるといつまで経っても終わらないので、ここは出発点とさせていただきます。

*3:f(z)=(z-z_1)\cdots (z-z_n)と対応させることで

*4:今後ちゃんと示すかもしれません。

*5:何度も書きますが、間違っている可能性もあります。今後の勉強で発覚した場合は都度履歴が分かるように訂正していきます。ご了承ください。

*6:現時点では証明ができていません

*7:紐の収縮や、板と板の間の距離の違い、紐をくぎから外すことなく互いに変形できる結び目は同一視します。

*8:こういった定性的な話をいかに数式で厳密に証明するのかは今後の自分の課題です。

「大槻っ!お前やったな!?」カイジでカイ二乗検定してみた

昨日アクチュアリーの一次試験の「数学」を受験してきました。それなりに勉強したにも関わらず、合否は半々だろうといった手応えでした。よく言われることですが、家で問題が解けても、プレッシャーのかかる試験会場で問題が解けるとは限りません。

試験後私の頭の中は次のような言葉で満ちていました。

「悔しいっ・・・!悔しいっ・・・!悔しいっ・・・!し・・・しかし・・・・しかし・・・これでいいっ・・・・!来年受け直すためにまた勉強するっ!完膚なきまでに問題を解けるようになるまで統計を体に染み込ませてみせるっ!これでいいっ・・・!これでこそ数学・・・・数学だっ・・・・・!」

ん?このフレーズどっかで聞いたことあるぞ。。?

そうだっ!カイジだっ!!

賭博破戒録 カイジ 2

賭博破戒録 カイジ 2

【目次】

カイジとは

カイジというのは福本伸行さん原作の賭博漫画のシリーズです。タイトルと同名の主人公カイジは、普段は体たらくでだらしない生活を送っていますが、大金、人生、命を賭けた賭博で窮地に追い込まれると、天才的なひらめきを発揮し一発逆転、対戦相手を圧倒します。痛快ストーリーとあいまって賭博が題材ということで特に成人男性に人気がある漫画に思えます。かくいう私も学生時代に住んでいた寮の談話室にカイジがあったことがきっかけで大好きな漫画になりました。

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ただ統計好きな人はカイジと聞くと「カイ二乗(かいじじょう)検定」を思い浮かべるのではないでしょうか?(そんなことはないか。。)

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ちょっと余談

私は数学が大好きですが、統計は全く好きではありませんでした。数学は美しさに溢れていますが、統計は数学ではなく計算であり、美しさではなく有用性を追い求める学問のように思えて敬遠していました。統計学に出てくる数式には必然性も美しさも感じません。しかし仕事柄統計を教える機会も多いので、スキルアップのためにアクチュアリーの数学試験を受験しました。数学試験といっても中身はバリバリの確率、統計です。

アクチュアリーの勉強をしていく中で統計についての自分の考えを改めました。各種検定、推定の理論は非常に数学的であり、自然界や工学の世界につきまとうランダムな事象をいかに合理的に処理するかという問題に対する答えを与えてくれるものです。統計学で出てくる各種分布は人類の長い闘いの後に手に入れた人類の宝と言えると思えます。

「ゴセットさんT分布を見つけてくれてありがとう!貴方のおかげで母分散がわからない正規分布の母平均をサンプルから精度付きで予測できます!」

しかし、それでも統計より数学の方が10,000倍いや、もっと、、、比較できないくらい好きです。各種分布よりオイラーさんの見つけた人類の至宝(e^{i\pi}+1=0)の方が大大大好きです。

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カイジカイ二乗検定

話を戻します。カイジカイ二乗検定は名前が似ているだけではありません。なんとカイ二乗検定を駆使することで、カイジ第二シリーズ(賭博破戒録)でカイジを苦しめた大槻班長を打ち倒すことができるかもしれないのです。

注意
ここから先の内容はネタバレ(大槻班長の姑息なイカサマ)を含みます。漫画で楽しみたい方は漫画を読んでから読んでください。

カイジは第二シリーズ開始早々、借金を返すために地下の強制労働施設に収容されてしまいます。カイジの借金額から計算された収容期間は15年間。当然嫌です。カイジは50万ペリカ(←地下通貨)を貯めて1日外出券を購入し、1日だけでも外に出ようと計画しますが、給料でもらった91,000ペリカをビール、おつまみで散財してしまいます。

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そんなカイジを地下でもペリカの借金地獄に陥れようとする男が大槻班長です。

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大槻班長カイジにチンチロという賭博を持ち掛けます。

チンチロは簡単に言うと3個のサイコロをふって出た目で決まるポイントを競うゲームです。3つのサイコロの目がバラバラだとポイントにならないのですが、2つの目が揃うと残りの1つの目の数がポイントになります。3つ同じ目で揃うとよりポイントが高くなります。

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また、先ほど3つの目がバラバラだとポイントにならないと書いたのですが、「1,2,3」と[4,5,6」は例外となっており、「4,5,6」はかなりポイントの高い出目になっています。
細かいポイントの設定は書きませんが、下の表で上に行くほど強い目となります。表にはその目が出る確率も記載します。これは高校レベルなので興味がある方は計算してみて下さい。

出目 確率
1のゾロ目 ①①① \frac{1}{216}
6のゾロ目 ⑥⑥⑥ \frac{1}{216}
5のゾロ目 ⑤⑤⑤ \frac{1}{216}
4のゾロ目 ④④④ \frac{1}{216}
3のゾロ目 ③③③ \frac{1}{216}
2のゾロ目 ②②② \frac{1}{216}
4,5,6(しごろ) ④⑤⑥ \frac{6}{216}
6の目 ③③⑥ \frac{15}{216}
5の目 ②②⑤ \frac{15}{216}
4の目 ⑥⑥④ \frac{15}{216}
3の目 ⑤⑤③ \frac{15}{216}
2の目 ④④② \frac{15}{216}
1の目 ③③① \frac{15}{216}
目なし(4,5,6、1,2,3除く) ②④⑤ \frac{108}{216}
1,2,3(ひふみ) ①②③ \frac{6}{216}

大槻班長イカサマを行いカイジからペリカを巻き上げ、カイジを地下でも借金地獄にすることに成功します。大槻班長イカサマ、それは4と5と6の目しかないイカサマサイコロ(以下、イカサマ賽)を使う事でした。

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このイカサマ賽を使うと先ほどのポイント表の確率は下のように変わります。振れば絶対目が出る、そしてポイントも上位の者ばかりになります。これでは通常のサイコロを使う限りはほとんど勝ちようがありませんね。

出目 確率
1のゾロ目 ①①① 0
6のゾロ目 ⑥⑥⑥ \frac{24}{216}
5のゾロ目 ⑤⑤⑤ \frac{24}{216}
4のゾロ目 ④④④ \frac{24}{216}
3のゾロ目 ③③③ 0
2のゾロ目 ②②② 0
4,5,6(しごろ) ④⑤⑥ \frac{6}{216}
6の目 ⑤⑤⑥ \frac{48}{216}
5の目 ⑥⑥⑤ \frac{48}{216}
4の目 ⑥⑥④ \frac{48}{216}
3の目 ②②③ 0
2の目 ①①② 0
1の目 ④④① 0
目なし(4,5,6、1,2,3除く) ②③⑥ 0
1,2,3(ひふみ) ①②③ 0

カイジは直感により大槻班長の不正に気付きましたが、私にはカイジのような天才的なひらめきはないと思われるため、ここでは数学、特に統計の力を借りて大槻班長の不正を暴くことにしましょう。そう、ここで登場するのがカイ二乗検定です!

カイ二乗検定とは

ということで、カイジの世界を離れて簡単にカイ二乗検定の説明をしたいと思いますが、感じをつかんでいただきたいだけで、説明は不十分です。詳しく知りたい方は統計WEBの記事をご参照ください。

bellcurve.jp


n個のものがA_1A_2、、、A_kというk個のカテゴリに分類されているとし、各カテゴリの観測度数をf_1f_2、、、f_kとします。つまりf_1+f_2+\cdots+f_k=nが成り立っています。

また各カテゴリには理論確率p_1p_2、、、p_k(p_i>0p_1+\cdots+p_k=1)が与えられており、これが正しければ生じるであろう各カテゴリの理論度数はnp_1np_2、、、np_kとなります。

A_1 A_2 \cdots A_k
観測度数 A_1 A_2 \cdots A_k n
理論確率 p_1 p_2 \cdots p_k 1
理論度数 np_1 np_2 \cdots np_k n


この時、
\chi^2=\frac{(f_1-np_1)^2}{np_1}+\frac{(f_2-np_2)^2}{np_2}+\cdots + \frac{(f_k-np_k)^2}{np_k} = \sum_{i=1}^{k}\frac{(f_i-np_i)^2}{np_i}
は自由度k-1カイ二乗分布に従うことが証明できます。なお、\chi^2カイ二乗(かいじじょう)と読みます。

カイ二乗分布は、正の整数を自由度と呼ばれるパラメータでもっている分布で、下記のようなグラフになります。

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\chi^2の式を見れば明らかな通り、観測度数が理論度数に一致する時\chi^2=0となり、観測度数と理論度数のずれが大きくなるにつれて\chi^2の値も大きくなります。\chi^2の値が大きくなればなるほど、その理論確率はあり得ないという事がわかり、どのくらいあり得ないかということがグラフと横軸の挟む面積で定量的に分かるのです。

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いざ検定!

統計学の「検定」とは、「Aである!」という事実を主張したいとき、「Aではない」という仮説(専門的には帰無仮説という)を立て、その仮説の下で計算されるある統計量(ここでは\chi^2)が予め設定したあり得なさを表す確率(有意水準という。座学の統計では5%の値をとることが多いが、実際には分野、求められる精度によって全く異なる値を設定する)以下でしか発生しない、つまり稀にしか起きないことを示して、「やはりAなのだ!」と結論付けたり、結論付けれなかったりする手法です。

今回の大槻班長イカサマに関しては、イカサマであるという事を主張したいので、まずは「イカサマではない」という仮説を立てます。


次にカイ二乗を計算する必要があるのですが、そのためには大槻班長の出目のデータが必要です。普通なら「これは困ったっ!大槻班長の不正が暴けないっ!」となるところなのですが、なんと、カイジと同じくペリカ借金地獄の三好が過去の班長の出目をメモっていてくれました。実はカイジも三好のメモを見て大槻班長の不正に気付いたのでした。

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「三好さん三好メモを付けてくれてありがとう!貴方のおかげで憎き大槻班長の不正を暴くことができるかもしれません!」

漫画の中で班長の出目の描写と三好のメモから作成したデータが下記です。

話数 出目 備考
12話 5の目 大槻初戦②②⑤
13話 目なし -
17話 4の目 イカサマ賽を使用⑤⑤④
18話 5ゾロ 圧倒的イカサマ賽使用
20話 5の目 三好メモ
20話 目なし 三好メモ
20話 目なし 三好メモ
20話 3の目 三好メモ
20話 6の目 三好メモ
20話 5の目 三好メモ
20話 4,5,6 三好メモ
20話 目なし 三好メモ
20話 目なし 三好メモ
20話 2の目 三好メモ
20話 4の目 三好メモ
20話 目なし 三好メモ
20話 2の目 三好メモ
21話 6の目 三好メモ
21話 4,5,6 三好メモ
21話 3の目 三好メモ
21話 5の目 三好メモ
21話 目なし 三好メモ
21話 目なし 三好メモ
21話 6の目 三好メモ
21話 目なし 三好メモ
21話 3の目 三好メモ
21話 目なし 三好メモ
21話 目なし 三好メモ
21話 4の目 三好メモ
21話 目なし 三好メモ
21話 4の目 三好メモ
21話 3の目 三好メモ
23話 4,5,6 45組が見守った大事な一投
29話 6の目 ③③⑥
32話 1の目 ④④①
32話 1の目 ④④①
36話 目なし 最後の対決1投目 ③④⑤
37話 目なし 最後の対決2投目 ②④⑥

こうして見ると三好メモの偉大さがわかります。三好メモには何投目でその目を出したかも書かれているため、目なしについてもカウントできます。

これをわかりやすく表にまとめてみます。ここではイカサマ賽を使ったという事に興味があるため、4、5、6関連の出目とそれ以外に分けてみました。

4の目 5の目 6の目 4ゾロ 5ゾロ 6ゾロ 4,5,6(しごろ) それ以外
観測度数 4 4 4 0 1 0 3 21
理論確率 \frac{15}{216} \frac{15}{216} \frac{15}{216} \frac{1}{216} \frac{1}{216} \frac{1}{216} \frac{6}{216} \frac{162}{216}
理論度数 2.57 2.57 2.57 0.17 0.17 0.17 1.03 27.75

「データも揃ったし、いざ計算!」といきたいところですが、アクチュアリー受験生のバイブルであるヘイジ親分の「明解演習 数理統計」によると観測度数も、期待度数も5以上である必要があり、5未満のものがある場合は隣接する階級を合体などしなさいとのことです。「ヘイジ親分ありがとう!(カイジ親分ではない)」

明解演習 数理統計 (明解演習シリーズ)

明解演習 数理統計 (明解演習シリーズ)


そこでまとめ直したのが下記表です。4、5、6が絡む出目はすべてまとめましたが、それで問題ないはずです。

出目に4、5、6が絡むもの それ以外
観測度数 16 21
理論確率 \frac{54}{216} \frac{162}{216}
理論度数 9.25 27.75


大槻はやったのか?やってないのか?

先ほど得られた表で\chi^2を計算すると、
\chi^2=\frac{(16-9.25)^2}{9.25}+\frac{(21-27.75)^2}{27.75} = 6.568
となり、「大槻班長は不正をしていない」という(帰無)仮説のもと、これは自由度1のカイ二乗分布に従うことになります。

有意水準(あり得ないと結論付ける確率)を5%として、グラフ上で\chi^2=6.568の値を確認してみると、この\chi^2の値は上側5%というあり得ないゾーンに入っていることがわかります。

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「大槻班長は不正をしていない」と仮定すると、実際に目の前で起こった事象は5%以下の確率でしか起こらない、それは稀だ、つまり「大槻班長は不正をしている!」と結論付けることができるのです。

よってカイジ統計学の素養があれば、

「大槻っ!お前が不正をしていないという帰無仮説のもと、過去37回のお前の出目を有意水準5%でカイ二乗検定したところ、ピアソンの適合度基準が自由度1のカイ二乗分布の棄却域に入ったから、お前は不正をしたと証明されたぞ!」

といって、大槻班長の不正を暴くことができるのです。

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統計は自分の主張を正当化するツールです。上司をデータで説得したい社会人は是非とも身に付けていただきたい技術です。統計の素養を身に付けたカイジのようにパワーワードを並べて威嚇することで、統計の素養の無い上司は何も言えず、貴方の言いなりになるでしょう。

しかし気を付けてください、上司(ここでは大槻班長)が統計的素養がある場合、

「それはあくまで有意水準が5%の場合じゃろ。有意水準1%ならば自由度1のカイ二乗分布の上側1%点は6.6349だから帰無仮説を棄却できん、つまりわしの不正があったとは言えないじゃろ。カカカ」

と返り討ちに合うかも知れません。

「これだから統計は嫌いだ。(心の声)」

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p進距離はなぜ特別か?

この記事は、日曜数学 Advent Calendar 2017 - Adventar 22日目の記事です。21日目は三重積さんの射影平面についての導入的な話 - すうがくなどについてのメモでした。

数学界隈のtwitterを見ていると「p進距離」、「p進数体」、「p進付値」とやたら[p進〜」という言葉を目にします。そこで今回は有理数{\mathbb Q}上の「p進距離」に注目します。「p進距離」は一見不思議な距離の定義ですが、オストロフスキーの定理 - Wikipediaを紹介、証明することで、通常の距離と同じくらい自然なものであるということを紹介することが目的です。言わずもがなですが、p素数です。つまり1つ1つの素数に対して、何か距離を定める規則が1つ決まると思ってください。

流れとしては下記となります。

  1. 距離とは何か
  2. 距離の例
  3. ノルムとは何か
  4. ノルムの例
  5. ノルムから距離の導出
  6. p進ノルムとp進距離
  7. オストロフスキーの定理とその証明

距離とは何か

数学は同じ概念を持つ対象から、それらが持っている性質の本質(エッセンス)を抽出し、逆にその本質をもって概念を定義し直します。距離という概念に対しても日常生活で使用しているユークリッド距離以外に、マハラノビス距離、ハミング距離など対象や用途によって様々な距離があります。

これらの距離の性質から本質を取り出し、距離を数学的に定義すると下記のようになります。

<距離の定義>
空でない集合Xに対して、X\times Xから\mathbb{R}_{\geq0}への写像dが、次の1)〜3)を満たすとき、dを集合X上の距離関数と呼び、集合Xの2点xyの距離をd(x,y)で定義する。
1) {}^\forall x,y \in Xに対して、「d(x,y)=0 \iff x=y」が成り立つ。
(同一の点間の距離は0だし、2点間の距離が0ならその2点の距離は0という当たり前のこと。)

2) {}^\forall x,y \in Xに対して、「d(x,y)=d(y,x)」が成り立つ。
(xyの距離はyxの距離と等しいという当たり前のこと。)

3) {}^\forall x,y,z \in Xに対して、「d(x,z)\leq d(x,y) + d(y,z)」が成り立つ。
(xからzへ行きたい時、どこか別の点yを経由すると歩く距離が長くなってしまうという当たり前のこと。)

逆にどんな関数でも、この条件を満たせば距離関数と呼んでよく、距離関数によって集合上に距離が定まることになります。

なお、空でない任意の集合Xに対して、距離関数d_0を、
\displaystyle
  d_0(x,y) = \begin{cases}
    0 & (x=y) \\
    1 & (x\neq y)
  \end{cases}
で定義すると、これは明らかに距離関数の条件を全て満たします。
この距離関数によって定まる距離を自明な距離と呼びます。

また、2つの距離関数d_1d_2に対して、「\lim_{n\rightarrow \infty }d_1(x_n,x) = 0 \iff \lim_{n\rightarrow \infty }d_2(x_n,x) = 0」が成り立つとき、2つの距離は同じ位相構造を定めると言います*1

今回のテーマのp進距離は有理数\mathbb Q上の距離関数d_pで定義される距離です。その具体的な関数の形はまた後で見ていきます。

距離の例

例えば、次の3つの関数はいずれも{\mathbb R}^2上の距離関数になります。

\displaystyle
\begin{cases}
 d^{(2)}( (x_1,y_1),(x_2,y_2) ) = \sqrt{(x_1-x_2)^2+(y_1-y_2)^2} \\
\\
 d^{(1)}( (x_1,y_1),(x_2,y_2) ) = |x_1-x_2|+|y_1-y_2| \\
\\
 d^{(0)}( (x_1,y_1),(x_2,y_2) ) = \max\{ |x_1-x_2|,|y_1-y_2|\} \\
 \end{cases}

距離関数の条件を満たすことは実際に計算することでわかります。
これらの距離関数がどのような距離を定めているかは、図示するとわかりやすいです。

中学、高校では平面上の2点の距離(つまり、線分の長さ)はd^{(2)}から定まるユークリッド距離で計算しますが、数学的にはd^{(1)}d^{(0)}のような通常とは異なる距離も立派な距離になります。図示するとわかりますが、d^{(2)}d^{(1)}d^{(0)}は同じ位相構造を定めます*2

ノルムとは何か

ノルムは通常ベクトル空間に対して定義されますが、有理数体などの体は、自分自身の体の上のベクトル空間と見なせます。本記事で扱うノルムは有理数体上のものに限られるため、ノルムの定義は最初から体上に定義する形で与えます。

ノルムは中学校で習った絶対値(|\ast|)の一般化です。距離の性質から本質を取り出して、改めて数学的に距離を定義した時と同様に、絶対値で成り立っていた性質から本質的なものだけを取り出して、ノルムの定義としています。

<ノルムの定義>
Kに対して、Kから\mathbb{R}_{\geq0}への写像\varphiが、次の1)〜3)を満たすとき、\varphiを集合X上のノルムと呼ぶ。
1) x \in Kに対して「\varphi(x)=0 \iff x=0」が成り立つ。

2) {}^\forall x,y \in Kに対して、「\varphi(xy)=\varphi(x)\varphi(y)」が成り立つ。

3) {}^\forall x,y \in Kに対して、「\varphi(x+y)\leq \varphi(x) + \varphi(y)」が成り立つ。

(今後、\varphiがノルムのとき、\varphi(x)|x|の様に絶対値の記号を用いて書く。)

2つのノルム|\ast|_1|\ast|_2、及び\alpha > 0に対して任意のx \in K|x|_1=|x|_2^\alphaが成り立っている時、この2つのノルムは同値であるといいます *3

ノルムの例

距離の時と同様に、次で定義される|\ast|_0は明らかにノルムの条件を満たします。これを自明なノルムと呼びます。

\displaystyle
  |x|_0 = \begin{cases}
    0 & (x=0) \\
    1 & (x\neq 0)
  \end{cases}

また、中学校の時に習った絶対値も、当然有理数{\mathbb Q}上のノルムになっています。本記事ではこのノルムを、通常のノルムと呼び、|\ast|_\inftyで表します。

通常のノルム|\ast|_\inftyと、0<\alpha\leq1が与えられた時に、|\ast|_\infty^\alphaもノルムとなります。実際ノルムの条件1)、2)を満たすことは明らかです。
3)に関しても、

\displaystyle
\begin{split}
{|x+y|}^\alpha  & = {|x|}^\alpha{\left|1+\frac{y}{x}\right|}^\alpha \leq |x|^\alpha \left(1+\left|\frac{y}{x}\right|\right)^\alpha \\
& \leq {|x|}^\alpha  \left(1+{\left|\frac{y}{x}\right|}^\alpha\right) = {|x|}^\alpha + {|y|}^\alpha
\end{split}

となり、確かに3)も満たしていることがわかります。

ノルムから距離を構成できる

一般に体K上にノルム|\ast|が与えられているとき、x,y \in Kに対して、

\displaystyle
d(x,y)=|x-y|

と定義すると、これは距離関数の条件を満たすことが簡単に示せます。簡単に示せるわけは、距離関数の条件とノルムの条件はとても似通っており、元々ノルムは距離の一般化として生まれた概念だからだろうと思います。

自明なノルム|\ast|_0からは自明な距離が、通常のノルム|\ast|_\inftyからは通常使うユークリッド距離が導出されます。

先の例では|\ast|_\infty^\alphaもノルムとなっていましたが、|\ast|_\infty^\alphaからは明らかにユークリッド距離と同じ位相構造を定める距離が導出されます。一般に2つのノルムが同値であれば、そのノルムから導出される2つの距離は同じ位相構造を定めます。

「ノルムから導出される有理数体上の距離で、この2つとは違う位相構造を定めるものは他に何があるの?」「残りはp進距離(と同じ位相構造を定める距離)だけですよ。」というのが本記事で言いたいことです。

p進ノルムとp進距離

有理数体上にp進ノルムと呼ばれるノルムを定義します。

<{\mathbb Q}上のp進ノルムの定義>
p素数とし、{\mathbb Q}上のp進ノルム|\ast|_pを次式で定義する。
x\in {\mathbb Q}に対し、
|x|_p= \begin{cases}
    p^{-\nu_p(x)} & (x\neq 0) \\
    0 & (x=0)
  \end{cases}

ただし、\nu_p(x)xp^l\times \frac{a}{b}(lは整数、abpで割れない整数)と表したときの、lで定義します。(\nu_p(x)=l)

一見わかりにくいですが、例えば、

\displaystyle
{\left|\frac{68}{13}\right|}_2={\left|2^2\times\frac{17}{13}\right|}_2=2^{-2}

ですし、

\displaystyle
{\left|\frac{25}{54}\right|}_3={\left|3^{-3}\times\frac{25}{2}\right|}_3=3^{3}

となります。

このp進ノルムから構成される有理数体上の距離をp進距離といい、距離関数をd_pで表します。
\displaystyle
d_p(x,y)={|x-y|}_p

これは通常のユークリッド距離と同じ位相構造を定めません。
それが分かる1例として、22^22^32^4、、、という有理数体上の点列を考えるとこの点列は通常のユークリッド距離では明らかに収束せずに発散しますが、p=2とした2進距離では0との距離が、2^{-1}2^{-2}2^{-3}2^{-4}、、となるので、0に収束します。よってユークリッド距離とp進距離は同じ位相構造を定めません。p_1p_2が相異なる素数の時、p_1進距離とp_2進距離が同じ位相構造を定めないことも明らかでしょう。

オストロフスキーの定理とその証明

ざっと距離、ノルム、p進距離について記載しましたが、本記事で一番いいたいところ、

<オストロフスキーの定理>
有理数{\mathbb Q}上で互いに同値でないノルムは、自明なノルム、通常のノルム、p進ノルムに限られる。

同値なノルムから導出される距離は同じ位相構造を定めていました。オストロフスキーの定理から、ノルムから導出される有理数体上の距離は、同じ位相構造を定める距離にのみ注目すると、自明な距離、ユークリッド距離、p進距離の3種類しかないということが言えます。自明な距離と、私たちが通常使うユークリッド距離に並んで、p進距離が登場しています。よってp進距離は特別!!

では最後にオストロフスキーの定理を証明します。証明は、

整数論〈上〉 POD版

整数論〈上〉 POD版

に倣います。

<オストロフスキーの定理の証明>
\varphi{\mathbb Q}上の自明でないノルムとします。

次の2つは互いに排反であり、どちらかが必ず成り立っています。

  • 少なくとも1つの自然数a>1に対して、\varphi(a)>1 (任意のノルムに関して\varphi(1)=1を簡単に示せるので、1は除外しています。)
  • 任意の自然数nに対して\varphi(n)\leq 1

まず、前者だった場合を考えます。自然数nに対して
\displaystyle
\varphi(n)=\varphi(1+\cdots + 1) \leq \varphi(1) + \cdots \varphi(1) =n
つまり、\varphi(n)\leq nとなるので、\varphi(a)>1となる自然数aに対し、ある実数\alpha (0< \alpha \leq 1)が存在して、
\displaystyle
\varphi(a)=a^\alpha(> 1)
とおくことができます。

任意の自然数Nに対して、これをa進法で展開します(中学校で習った10進法で表されている整数を2進法で表すやり方と全く同じです。)。
\displaystyle
N=x_0+x_1a+\cdots + x_{k-1}a^{k-1}
ただし、0\leq x_i\leq a-1かつ、x_{k-1}\geq 1とします。これはNa進法で[x_{k-1}x_{k-2}\cdots x_1x_0]_aと表せることを意味します。
また、Na進法でk桁の数ということで、
\displaystyle
a^{k-1}\leq N < a^k
が成り立っていることもわかります。(というよりこれが成り立つようにkを決めています。)

ノルムの性質から、
\displaystyle
\begin{split}
\varphi(N)  & \leq \varphi(x_0) + \varphi(x_1)\varphi(a) + \cdots \varphi(x_{k-1})\varphi(a)^{k-1} \\
& \leq (a-1)(1+a^{\alpha}+\cdots +a^{(k-1)\alpha})\\
& \leq (a-1)\frac{a^{k\alpha}-1}{a^\alpha -1} < (a-1)\frac{a^{k\alpha}}{a^\alpha -1}=\frac{(a-1)a^\alpha}{a^\alpha -1}a^{(k-1)\alpha}\\
& \leq \frac{(a-1)a^\alpha}{a^\alpha -1}N^\alpha=CN^\alpha
\end{split}
つまり、
\displaystyle 
\varphi(N) < C N^\alpha
となります。
ここで、Cは下記で定義されるNに依存しない定数です。
\displaystyle
C=\frac{(a-1)a^\alpha}{a^\alpha -1}

CNに依存しないので、m自然数としてNN^mに置き換えると、
\displaystyle
\varphi(N^m)=\varphi(N)^m < CN^{m\alpha}
より、
\displaystyle
\varphi(N) < C^{\frac{1}{m}} N^{\alpha}
となり、m\rightarrow \inftyとすることで、
\displaystyle
\varphi(N)\leq N^{\alpha}
が成り立ちます。

次に、Na^kよりも小さい自然数だったので、b自然数として、N=a^k-bとおきます。ただし、b>a^k-a^{k-1}であると、N\geq a^{k-1}が成り立たなくなってしまうので、0 < b \leq a^k - a^{k-1}です。

任意のNについて\varphi(N) \leq N^{\alpha}を示しましたので、当然bについても\varphi(b) \leq b^\alpha \leq (a^k - a^{k-1})^\alpha成り立っています。
今、a^k=N+bより、ノルムの性質で、
\displaystyle
\varphi(a^k) = \varphi(N + b) \leq \varphi(N) + \varphi(b)
となり、最初の方で示した\varphi(a)=a^\alphaと先ほど示した\varphi(b) \leq (a^k - a^{k-1})^\alphaを用いると、
\displaystyle
\begin{split}
\varphi(N) & \geq \varphi(a^k) - \varphi(b) = \varphi(a)^k - \varphi(b) = a^{\alpha k} - \varphi(b) \\
& \geq a^{\alpha k} - (a^k - a^{k-1})^\alpha = \left(1-\left(1-\frac{1}{a}\right)^\alpha \right)a^{\alpha k} \\
& = C_1 a^{\alpha k} > C_1 N^\alpha
\end{split}
となります。ここで、C_1は下記で定義されるNに依存しない定数です。
\displaystyle
C_1= \left(1-\left(1-\frac{1}{a}\right)^\alpha \right)
先ほどと同様に\varphi(N) > C_1 N^\alphaに対して、NN^mに置き換えると、
\displaystyle
\varphi(N)^m = \varphi(N^m) > C_1 N^{\alpha m}
となり、
\displaystyle
\varphi(N) > {C_1}^{\frac{1}{m}} N^{\alpha}
から、m\rightarrow \inftyとすることで、
\displaystyle
\varphi(N)\geq N^{\alpha}
が成り立ち、先ほど、\varphi(N)\leq N^{\alpha}が成り立つことも示していたので、結局、
\displaystyle
\varphi(N) = N^{\alpha}
であることがわかりました。

最後に、{\mathbb Q}0でない元xx=\pm N_1/N_2(N_1N_2自然数)と表すと、
\displaystyle
\varphi(x)=\varphi\left(\frac{N_1}{N_2}\right) = \frac{\varphi(N_1)}{\varphi(N_2)}=\frac{N_1^\alpha}{N_2^\alpha}=|x|^\alpha
となります*4

まとめると少なくとも1つの自然数aに対して、\varphi(a)>1ならば、ノルム\varphiは通常のノルム|\ast|_\inftyと同値であることがわかりました。

では次に、後者の場合、つまり、任意の自然数nに対して\varphi(n)\leq 1である場合を考えます。

任意の素数pに対して\varphi(p)=1であるとすると、どんな自然数n素数の積で書けるため、ノルムの性質から\varphi(n)=1となり、これから全ての有理数x(\neq 0)に対して\varphi(x)=1が導けてしまいます。これは\varphiが自明なノルムでないことに矛盾するため、少なくとも1つの素数pに対して\varphi(p)<1となります。

ここで素数pとは異なる素数qに対しても、\varphi(q)<1であると仮定します。このとき自然数klを十分に大きく取れば、
\displaystyle
\varphi(p)^k < \frac{1}{2}, \qquad \varphi(q)^l < \frac{1}{2}
が成り立ちます。

p^kq^lは互いの素なので、ある整数uvが存在して、up^k + vq^l = 1となります。そして今任意のnに対して\varphi(n)\leq 1である場合を考えているので、\varphi(u)\leq 1\varphi(v)\leq 1となっており、以上から次の矛盾が得られ、pと異なる素数q\varphi(q)<1となることはないことがわかります。
\displaystyle
1=\varphi(1)=\varphi(up^k + vq^l )\leq \varphi(u)\varphi(p)^k + \varphi(v)\varphi(q)^l < \frac{1}{2} + \frac{1}{2} = 1.

ここまでをまとめると、任意の自然数nに対して\varphi(n)\leq 1である場合はただ1つの素数pが存在して、
\displaystyle
\varphi(p)=\rho < 1
となり、p以外の任意の素数qに対しては
\displaystyle
\varphi(q)= 1
となります。ただし\rho0<\rho < 1を満たす定数です。

あと少しです。以上から、自然数apと互いに素であれば明らかに\varphi(a)=1となります。
最後に、{\mathbb Q}0でない元xx=p^m a/b(abpと互いに素な整数)と表すと、
\displaystyle
\varphi(x)= \varphi(p^m)\frac{\varphi(a)}{\varphi(b)}=\varphi(p)^m=\rho^m=(p^{-m})^{-\frac{\log{\rho}}{\log{p}}}
となり、-\frac{\log{\rho}}{\log{p}}>0なので、これはp進ノルムと同値なノルムであることがわかります。

なんとも鮮やかな証明です。

明日はたけのこさんの保型形式のお話です。お楽しみに。
o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com

*1:2つの距離が同じ位相構造を定めることは、2つの距離が同値(あるCDが存在して、任意のxyに対してCd_1(x,y)\leq d_2(x,y)\leq Dd_1(x,y)が成り立つこと。)であることより広い概念です。2つの距離が同値であれば同じ位相構造を定めますが、一般にその逆は成り立ちません。

*2:同値でもあります。

*3:通常ベクトル空間のノルムに対しては、その同値性を「任意のベクトルxに対して、 C|x|_1 \leq |x|_2 \leq D|x|_1]となるCDが存在すること」と、定義します。しかしこの定義では後述するオストロフスキーの定理が強く見えまえん。この同値性を採用してしまうと、有理数体上で互いに同値でないノルムが自明なノルム、通常のノルム、p進ノルム以外にも例えば\sqrt{|x|}というノルムが存在してしまいます。

*4:この式変形で暗黙で使った、\varphi(-1)=1、及び\varphi(N_1/N_2)=\varphi(N_1)/\varphi(N_2)は、ノルムの定義から簡単に導けます。

調和級数大好きカメさん後日談

この記事は、インテジャーズ Advent Calendar 2017 - Adventar 19日目の記事です。

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インテジャーズ Advent Calendar 2017 - Adventarの5日目の記事で調和級数大好きカメさんの話を書きました。今回はその後日談の紹介です。

まだ調和級数大好きカメさんをご存知ない方は前回の記事を先に読んでみてください。
mattyuu.hatenadiary.com

調和級数大好きカメさんからの相談

ある日、くまさんのところに毎日調和級数ライフを楽しんでいるはずのカメさんが深刻な顔をしてやってきました。

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調和級数大好きカメさん「く、くまさん、、じ、実は相談が、、、」

くまさん「な、なんだい!?」

調和級数大好きカメさん「じ、実は僕、、、そ、、そ、、」

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調和級数大好きカメさん素数が好きになったんだ。。」

なぜ素数が好きになったのか

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くまさん「な、なぜだい!?、、君はゆっくりでもどんどん大きくなる調和級数に自分を重ね合わせてシンパシーを感じていたはずだろ??」

調和級数大好きカメさん「そ、素数にシンパシーを感じるんだよ。。」

くまさん「な、なぜだい!?君は素数とは似ても似つかないよ。。」

調和級数大好きカメさん「そ、素数はその逆数和が発散するんだ。素数分の1も足していけばいつかどんな大きくなるんだよ。インテジャーズに書いてあったんだ。」

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integers.hatenablog.com

調和級数大好きカメさん「調和級数よりゆっくりだけど、無限に大きくなる。そんな素数にシンパシーを感じるんだよ。」

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再び給水ポイントを

調和級数大好きカメさん「だからお願い、もう一度数直線上の整数に給水ポイントを設置してくれないか?」

くまさん「わ、わかったよ。」

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くまさん「設置したよ。でも本当に大丈夫かい?」

調和級数大好きカメさん「ありがとう!調和級数と一緒で、順番を並び替えたらきっと給水ポイントに止まれるよ!」

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整数1にたどり着けない

調和級数大好きカメさんは、数直線上で0を出発点とし、素数分の1の歩幅で歩き始めました。次の一歩が整数を超えてしまう時は、その歩幅は歩まずにそれより小さく、かつ整数を超えない素数分の1の歩幅で歩くのです。しかし、たった6歩歩いたところで行き詰まりました。6歩目に歩いた歩幅は1/654149です。次の一歩は654149より大きい素数の逆数にする必要がありますが、調和級数大好きカメさんはにわか素数ファンのため、大きい素数をほとんど知らなかったのです。次の一歩の計算に時間がかかり、なかなか一歩を踏み出せません。

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カメさんはリスタートということで、出発点に戻り、様々な素数分の1の歩幅で歩きますが、どうしても1にぴったり止まることができませんでした。。

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素数の逆数和はどんなに並び替えても整数にならない

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くまさん「調和級数大好きカメさん、、、僕は気づいてしまったよ。どんなに歩幅を入れ替えても君はただ一つの整数にすらぴったりたどり着くことはできないんだよ」

調和級数大好きカメさん「そ、そんなーー(T T)」

<証明>
p_1p_2\cdotsp_nを相異なるn個の素数とします。p_ii番目の素数という意味合いではないので、p_1=2p_2=3とは限りません。

今、ある整数Nが存在して、
\frac{1}{p_1}+\frac{1}{p_2}+\cdots +\frac{1}{p_n}=N
となったと仮定すると、
両辺にp_2p_3\cdots p_nを掛けることで、
\frac{p_2p_3\cdots p_n}{p_1}+p_3\cdots p_n+\cdots +p_2p_3\cdots p_{n-1}=p_2p_3\cdots p_nN
となり、左辺の第1項は整数でない有理数、それ以外の項は全て整数となり、矛盾します。
よって、仮定を満たすような整数Nは存在しません。

やっぱり調和級数が大好き

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調和級数大好きカメさん「くまさん、今回もいろいろありがとう。やっぱり僕には素数はまだ早かったよ。」

くまさん「そうだよね。素数の道は険しいよ。一緒に一歩一歩勉強していこう!」

調和級数大好きカメさん「そうしよう!」

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調和級数大好きカメさんの話

この記事は、インテジャーズ Advent Calendar 2017 - Adventar 5日目の記事です。4日はせきゅーんさんセメレディの定理の組合せ論的証明ー2 - INTEGERSでした。

今回は調和級数と調和級数が大好きなカメさんのお話をしたいと思います。「調和級数って何?」っていう説明もしますので、知らない方も安心してください。

ちりが積もっても山にならない

俗世間では「ちりも積もれば山となる」とよく言われますが、数学の世界にはちりが積もっても山とならないようなものが存在します。

例えば、

\displaystyle
1+0.1+0.01+0.001+\cdots

という無限個の足し算を考えると、この無限個の足し算は明らかに、

\displaystyle
1+0.1+0.01+0.001+\cdots = 1.111111\cdots < 2

という風に小数点以下に1が並ぶ数となり、この結果は2を超えることはありません。足していく数は全て0より大きいため、足し算を続ければ続けるほど足し算の途中結果はどんどん大きくなっていきます。

ちりのように小さい数がどんどん足されて、どんどん大きくなるのに2を超えないのです。


今度は、次のような無限個の足し算を考えてみます。分母が124816とどんどん倍になっているものです。

\displaystyle
1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+\frac{1}{16}+\frac{1}{32}\cdots

下の図から明らかのように、足し算を続ければ続けるほど途中の結果は2に近づいていきます。こちらの無限の足し算の結果も2を超えることはありません。

f:id:mattyuu:20171205120105p:plain

たしかに数学の世界ではちりが積もっても山とならないような例が存在します。

調和級数

ちりが積もっても山にならない例を知った上で、本題の調和級数の話をします。

下記の無限個の足し算を調和級数と言います。

\displaystyle
1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\frac{1}{5}+\frac{1}{6}+\frac{1}{7}+\cdots

この足し算は現実世界でちりが積もって山になるのと同じように、無限に大きくなるでしょうか?それとも、前述した2つの足し算同様に、ある値(前述の例では2)が存在して、どんなに頑張ってもその値を超えることはないのでしょうか?


調和級数も前述した例と同様に、足し算を続けていくと、「1兆分の1」、「1兆1分の1」、「1兆2分の1」、、、と足す数はどんどん小さくなっていきます。

\displaystyle
1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+\cdots  + \frac{1}{1000000000000}+ \frac{1}{1000000000001}+\frac{1}{1000000000002}+\cdots +

「1兆分の1」は0.000000000001なので、全体の和はほとんど増えないことがお分かりいただけるかと思います。

しかし調和級数は足し算を続けていくとあらゆる数より大きくなります。例えばあなたが「100兆!」と言ったら、いつか調和級数の和も100兆を超えます。これはなかなか不思議なことです。本当にちりのようなどんどん小さくなる分数たちが、どんどん足されていくことでいつしかどんな数をも超えていくのです。このことを調和級数は発散するといいます。

下表に調和級数の途中までの和(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\cdots+\frac{1}{n})が初めて218を越える時のnをまとめました。\frac{1}{36865412}まで足してやっと18を越えるということで、非常にゆっくり、そして着実に大きくなることがわかります。

f:id:mattyuu:20171205120109p:plain

調和級数が発散することの証明はインテジャーズに書いておりますので、是非読んでみてください。

integers.hatenablog.com

調和級数大好きカメさん登場

ここで今後の話をイメージしやすくするために調和級数が大好きなカメさんを登場させます。

調和級数は非常にゆっくりですが少しずつ大きくなり、いつしかあらゆる数より大きくなるものでした。カメさんもその歩みは遅いですが、非常に努力家なので、地道に歩き続けどんな遠くにも行ってしまいます。

ここに調和級数と努力家な自分にシンパシーを強く感じるカメさんがいます。いつしか他の動物たちから調和級数大好きカメさんと呼ばれるようになりました。

f:id:mattyuu:20171205120112p:plain

調和級数大好きカメさんは、調和級数が大好きなので歩く歩幅は調和級数に倣っています。つまり最初の一歩の歩幅は1、次の一歩の歩幅は\frac{1}{2}、その次は\frac{1}{3}です。調和級数のように数直線上で0を出発地点として、数直線を歩き続けます。

f:id:mattyuu:20171205120114p:plain


調和級数は発散するため、調和級数大好きカメさんはいつしか1000、いつしか100兆を超えて行きます。

f:id:mattyuu:20171205120124p:plain

喉が乾く調和級数大好きカメさん

調和級数大好きカメさんがいくら努力家だと言っても生き物です。飲まず食わずでは歩き続けることはできません。

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そこで数直線上の整数点に給水所を設けてあげることにしました。給水所では水とバナナが供給されます。

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ただし、1つだけルールがあります。調和級数大好きカメさんがぴったり整数の点に止まれた時だけ、つまりぴったり給水所にたどり着いた時だけ、水を飲み、バナナを食べても良いというルールです。

調和級数大好きカメさんのスタート地点は0で最初の一歩の歩幅は1ですから、一歩歩いて整数1の地点に止まりますので、調和級数大好きカメさんは水を飲みました。今はそんなにお腹は空いていないということで、「バナナは次の給水所で食べる」と言い残し、出発しました。

f:id:mattyuu:20171205120138p:plain

しかし、

\displaystyle
1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3} = \frac{11}{6}  < 2


\displaystyle
1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3} + \frac{1}{4} = \frac{25}{12} > 2

なので、次の整数2に設置された給水所にはぴったり止まることはできませんでした。「まあこんなこともあるさ」と調和級数大好きカメさんは整数3の給水所を目指し再び歩き始めます。

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しかし、

\displaystyle
1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\cdots + \frac{1}{10}   < 3


\displaystyle
1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\cdots + \frac{1}{10}+\frac{1}{11}   > 3
なので、続く整数3の給水所にもぴったり止まることはできず、整数1の給水所でバナナを食べなかったことを後悔し始めました。しかし「自分の歩幅はどんどん小さくなるんだ。次くらいにはぴったり整数の給水所に止まれるだろう。」と調和級数大好きカメさんは再び歩き始めるのでした。

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しかしその後、調和級数大好きカメさんが整数の給水所にぴったり止まることは二度とありませんでした。。。

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調和級数の途中和は整数にならない

実はn>1のとき、

\displaystyle
1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\cdots + \frac{1}{n}

は整数になりません。

これは私は大学時代に読んでいた代数学のテキスト*1の演習問題で知りました。2016年11月、「これはあまり知られていなさそうだ。ブログに書いちゃおう!」と思い、この事実をブログに書いていたところ、あるブログが目に留まりました。

そうインテジャーズです。


integers.hatenablog.com

証明はインテジャーズの記事を読んでください。「他のブログに書いてあることは書く意味がない(T T)」と、私のブログは書きかけのまま一年以上放置されていましたが、今回インテジャーズのアドベントカレンダーに投稿することで、日の目を見ることとなりました。

調和級数大好きカメさんに水を飲ませてあげたい

調和級数大好きカメさんの友達のくまさんは、とても友達想い。飲み食いせず歩き続ける調和級数大好きカメさんに提案をします。

f:id:mattyuu:20171205120152p:plain

くまさん「調和級数大好きカメさん。このままじゃ倒れちゃうよ。」

調和級数大好きカメさん「いいんだよ。僕はルール通りに頑張るだけだよ。僕は歩幅を変えるつもりもないし、整数以外の点で水を望んだり、バナナを望んだりしない。いくら給水所までの距離が0.0000000000000001以下だったとしても。」

くまさん「次の一歩で整数の給水所を超えてしまう時、歩幅を変えて歩いて給水所に止まろうよ。バナナ美味しいよ。」

調和級数大好きカメさん「僕は調和級数が大好きだ。歩幅を変えるなんて絶対にやりたくないんだ。わかってくれよ、くまさん。」

くまさん「違うよ。たしかに歩幅は変えるよ。でもそれはこの先君が歩む一歩の歩幅にするんだよ。つまり今歩こうとしている一歩を将来にとっておいて、将来歩く一歩の歩幅で今歩むんだよ。当然その歩幅は今歩いちゃうんだから将来は歩いてはいけないということにすればいい。とっかえっこするだけだよ。」

内心喉が渇いて、お腹も空いていた調和級数大好きカメさんは迷い始めます。

調和級数大好きカメさん「本当にそれで整数の給水所に止まれるの・・・?」

くまさん「止まれるんだよ。しかも全整数の給水所に!

単位分数(エジプト分数)の話

調和級数の足し算に現れる分母が正の整数で分子が1である分数を単位分数と呼びます。\frac{1}{2}\frac{1}{691}等です。

そして、任意の有理数(=整数分の整数で表せる分数のこと。分数と思ってもらえればよい)は単位分数の和で表すことができるという素晴らしい定理があります。

証明はそうですね、インテジャーズを読んでください。

integers.hatenablog.com

調和級数大好きカメさんが次の一歩で次の整数にある給水所を超えてしまう時、今調和級数大好きカメさんがいる点と、次の整数の給水所までの距離は有理数(≒分数)になっています。

つまりその有理数を単位分数の和で表すことで、調和級数の足し算に現れる分数でその距離を歩くことができるのです。

しかし、右辺の単位分数は今まで調和級数大好きカメさんが歩いた歩幅になっていてはいけません。調和級数大好きカメさんは歩幅の順番を変えることに関してはOKを出しつつありますが、同じ歩幅を歩くなんてことは彼のプライドが許すわけないのです。このままではカメさんが確実に次の給水所に止まれるという保証がありません。

しかしながら、n自然数として、実は次の式が成り立ちます。

\displaystyle
\frac{1}{n}=\frac{1}{n(n+1)}+\frac{1}{n+1}

なんと単位分数はそれより分母の大きい二つの単位分数の和で表すことができるのです。しかも無限通りに。当然単位分数の数はどんどん多くなります。

つまり、次の給水所のまでの距離を単位分数で表した時に、その単位分数に今まで歩いた歩幅が含まれている場合、上の式を使って別の単位分数で表してあげれば良いのです。単位分数の分母はどんどん大きく取ることができます。一方調和級数大好きカメさんが歩いた歩幅は高々有限通りです。単位分数を別の単位分数で表すという操作を繰り返せば、いつかは絶対に今まで歩いていない歩幅が出てくるのです。

最後の説得

くまさん「わかったよね?つまり次の一歩はこう決めるんだ。基本的に次の一歩はまだ歩いていない歩幅のうち最大のもので歩いてね。つまり1\frac{1}{2}\frac{1}{341}の歩幅で今まで歩いたことがあって、\frac{1}{342}の歩幅で歩いたことがないんだったら、次の一歩は\frac{1}{342}だ。」

調和級数大好きカメさん「うん。いつもそうしてきたよ。」

くまさん「でも、次の一歩で次の整数の給水所を超えてしまう時だけ、今君がいるところから次の給水所までの距離を単位分数の和で表すんだ。その単位分数に今まで君が歩いたことのある歩幅がある場合は、より分母の大きい単位分数の和で表してあげよう。いつしか君が歩いたことのない歩幅が現れるよ。そうしたらその単位分数たちを歩幅にして歩いていけばいい。ちゃんと給水所にたどり着けるから。」

調和級数大好きカメさん「そうだね。うん、そうするよ。ギリギリ僕のポリシーに反しない。」

くまさん「そう。ただし、自分が歩いた歩幅はちゃんと覚えておかないといけないよ。うっかり同じ歩幅で歩いてしまうといけないから。」

調和級数大好きカメさん「僕の記憶力が良いのは知っているだろう。僕がそんなドジを踏むと思うかいwww」

くまさん「ごめん。ちなみに、君は調和級数の順番を変えて歩くことになるんだけど、この順番を変える写像全単射になっているよ。君は記憶力がいいから同じ歩幅を歩かない。つまり単射だ。そして、給水所を出発する時の次の一歩は確実にその時点で君が歩いていない歩幅で最大のものになる。なぜなら給水所から給水所まで一歩で行けるわけがないのだから。だから一つの整数を超えるごとにその時点で最大の単位分数を1つずつ消費することになるから、全射にもなるんだ。」

調和級数大好きカメさん「・・・ありがとう!」

こうして調和級数大好きカメさんは全整数で水を飲み、バナナを食べることができるようになりました。めでたしめでたし。

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最後に

調和級数の部分和が整数にならないという事実がインテジャーズに書いてあったため、何かオリジナルなものを考えたいと思いました。「そういえば素数の逆数和も発散する。素数の逆数和の部分和は整数にならないのだろうか。これはインテジャーズにも載ってないかも。これを考えてみよう」と思った数秒後にはインテジャーズに載っていることを発見しました。

integers.hatenablog.com

今回の話がインテジャーズに載っていないことを祈るばかりです。

今回の主張
自然数から自然数への全単射\varphi : \mathbb{N} \rightarrow \mathbb{N}が存在して、任意の自然数Nに対して、ある自然数Kが存在して、
\displaystyle
\sum_{k=1}^K\frac{1}{\varphi(k)}=N
となる。


明日はコロちゃんぬさんの「インテジャーズとの出会いとか」です!

追記)調和級数大好きカメさんの後日談も書きました。

mattyuu.hatenadiary.com

*1:

代数系入門

代数系入門

血液型の割合に感じる神の意思

この記事は、日曜数学 Advent Calendar 2017 - Adventar 3日目の記事です。2日目は数学カフェの中の人さんの【日曜数学アドベントカレンダー2日目】2343の魅力を伝えたい。 - 数学カフェの中の人達のブログでした。ちなみに2343はスーパー合成数でした。

この記事の内容は今年6月に行われた第9回日曜数学会で発表した内容をまとめたものです。なお、今年開催された日曜数学会は全3回全て発表したので皆勤賞です!それでは始めます!


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『血液型の割合に感じる神の意思』というタイトルで発表させていただきます。よろしくお願いします。


ある日twitterを見ていると、このようなアンケートが目に留まりました。
twitterには4択のアンケート機能がありますが、この機能を使って血液型のアンケートをとっています。「アンケート結果が日本人の血液型の割合と同じになるのか?」ということを調査しているようです。


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最終票数は493票となっており、その結果を実際の日本人の血液型の割合と比べると、アンケート結果の血液型の割合と、日本人の血液型の割合がほぼ同じになっていることがわかります。数学的には大数の法則と言いますが、こんな単純な調査でも意図した結果が出てくるのは面白いですね。

生物学に疎い私はこの調査結果を見て、「日本人の血液型の割合はどのように決まっているのか?」と疑問を持ちました。しかも血液型の割合は国によって違うと聞いたことがあり、俄然気になります。


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そこで日本以外の国の血液型の割合も調べて見ると、図中の円グラフのように確かに国によって血液型の割合はまちまちでした*1。ブラジルに至っては100%O型ということで驚きです。


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以上が動機となり、今回の発表のテーマは『血液型の割合はどうやって決まるのか?』、『日本の血液型の割合は今後変わっていく可能性はあるのか?』としました。これらの疑問に数学を使って答えていきましょう!その結果、「神の意思」と呼んでも良いような事実に辿り着きましたので、紹介したいと思います。


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まずはそもそも血液型とは何かを説明します。血液型を決める遺伝子(血液型遺伝子と呼ぶ)には、A型、B型、O型の3種類があり、人はその内の2つの遺伝子の組み合わせを持っています。血液型はA型、B型、AB型、O型の4種類だと思っていましたが、細かく言うとAA、AO、BB、BO、AB、OOの6種類があったのです。

ABO式血液型 - Wikipediaによるとこれら6種類のことを血液型ではなく遺伝子型と呼ぶようです*2。そしてAAとAOの遺伝子型をA型、BBとBOの遺伝子型をB型、ABの遺伝子型をそのままAB型、OOの遺伝子型をO型と決めています。AOをA型、BOをB型と呼ぶとO型遺伝子がかわいそうですが、O型遺伝子はA型、B型遺伝子に対して劣性遺伝子と言うそうで、生物学的にちゃんとした理由があるものと思われます。

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次にお父さんとお母さんの血液型が赤ちゃんにどのように遺伝するのかを説明します。赤ちゃんは、お父さんが持っている2つの血液型遺伝子のうちどちらか一方を、そして、お母さんが持っている2つの血液型遺伝子のうちどちらか片方を、それぞれランダムに引き継ぎます。と言っても、実際に例を見た方がわかりやすいと思うので、2例出して説明します。

まずは1例目です。
この例ではお父さんはAAのA型、お母さんはBOのB型です。お父さんの遺伝子型はAAですので、赤ちゃんが引き継ぐのはA型の血液型遺伝子だけです。一方お母さんからは50%の確率でB型の血液型遺伝子を、50%の確率でO型の血液型遺伝子を引き継ぎます。よって赤ちゃんの血液型は50%の確率でAB、50%の確率でAOとなります。


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次の例ではお父さんはABのAB型、お母さんはBOのB型になっています。先ほどの例と同様にお父さんからはA型、B型の血液型遺伝子を50%ずつの確率で、お母さんからはB型、O型の血液型遺伝子を50%ずつの確率でそれぞれ引き継ぐためそれぞれ25%の確率で、AB、AO、BB、BOの血液型を持った赤ちゃんが生まれてきます。


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では、いよいよ数学を使ってモデル化していきましょう。血液型がAAの人の割合をp_{\rm AA}という記号*3で表します。AOからOOまでの他の遺伝子型に対しても同様です。

これら6つの変数p_{\rm AA}p_{\rm AO}p_{\rm BB}p_{\rm BO}p_{\rm AB}p_{\rm OO}は割合を表しますから、当然それぞれの変数が実際にとる値は0以上1以下になります(0\leq p_i \leq 1)。また、人の血液型はAA、AO、BB、BO、AB、OOのいずれかですから、6つの変数の和は1になります(p_{\rm AA} +p_{\rm AO} +p_{\rm BB} +p_{\rm BO} +p_{\rm AB} +p_{\rm OO}=1 )。

現在の日本だと、AAが8%、AOが31%、BBが3%、BOが19%、ABが10%、OOが29%となっているので、p_{\rm AA}=0.08p_{\rm AO}=0.31p_{\rm BB}=0.03p_{\rm BO}=0.19p_{\rm AB}=0.1p_{\rm OO}=0.29となります。


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今回のテーマに『日本の血液型の割合は今後変わっていく可能性はあるのか?』という疑問を掲げています。先ほど血液型の割合を変数(p_i)で表しましたが、これに加えて変数の時間変化も考える必要があります。

そこで、ある世代の血液型の割合(p_i)を入れると、次の世代の血液型の割合(p_i^{+})を返すような関数Fを作りたいと思います。Fが作れると、ある世代の血液型の割合に次々とFを作用させる事で血液型の割合の変数の時間変化がわかるのです。


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Fを構成するに当たって3つの前提があります。

まず1つ目は『結婚相手は血液型で選ばない』という事です。血液型の相性という話も聞くため、中には結婚相手を血液型で選ぶ人もいるかもしれませんが、大半の人は血液型では相手を選ばないでしょう。マクロな視点で見たら結婚相手の血液型の確率は現在の血液型の割合に平均化されるという事です。

2つ目の前提は、『どの血液型の組み合わせのカップルも平均して同じ数の子供を出産する』です。夫婦によって子供の数はまちまちですが、その数は夫婦の血液型に依らないだろうという前提です。「あの夫婦はA型同士なので子沢山だわね」というような話は聞いたことありませんので、これも自然な前提かと思います。

3つ目の前提は『時間軸に世代という明確な区切りがあるものとする』です。今の日本には0歳児から100歳を超える御高齢の方まで連続的に各年齢の人が暮らしていますが、祖父母世代、父母世代、子供世代というように世代が存在することを前提にします。今の子供世代が次世代の父母世代となり赤ちゃんを産む事で次の子供世代が誕生し、また次の世代では最初の子供世代の人たちは祖父母世代となり、先代で誕生した子供世代が父母世代となり新しい子供世代が誕生します。前2つのものに比べて少し重たい前提ではありますが、暖かく見守ってほしいです。Fは父母世代の血液型の割合から、次の子供世代の血液型の割合を与える関数になるのです。

さて、モデルと前提が準備できましたので実際にFを構成していきます。


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こちらが次の世代のAAの血液型の割合p_{\rm AA}^{+}を与える数式になります。
まず、右辺の\frac{1}{4}p_{\rm AO}p_{\rm AB}について説明します。
夫婦をランダムに選んだ時に、お父さんがAO、お母さんがABである確率はp_{\rm AO}p_{\rm AB}となります*4。そして、この夫婦の赤ちゃんの血液型がAAになる確率は25%(=1/4)です。これから父母世代のAOのお父さん、ABのお母さんが次の世代のAAの割合に寄与する大きさは\frac{1}{4}p_{\rm AO}p_{\rm AB}となるのです。

赤ちゃんの血液型がAAということは、お父さん、お母さんの血液型の組として考えられるのは、(AA,AA)、(AA,AO)、(AO,AA)、(AO,AO)、(AA,AB)、(AB,AA)、(AO,AB)、(AB,AO)、(AB,AB)のいずれかです。お父さんの血液型がBO、お母さんの血液型がABであればどう頑張ってもAAの血液型を持つ赤ちゃんは産まれてこないため、(BO,AB)は考える必要はありません。(AO,AB)以外にも同様に計算していって全て足すこと*5で次の世代のAAの血液型の割合を出せるのです。


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同様に計算すると次の世代のAO、BB、BO、AB、OOの血液型の割合を導出する式はこちらになります。目が回りそうです。。。簡単に書けないでしょうか。。?


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よく見ると、右辺は変数の二次式になっています。今までp_{\rm AA}^2と書いてあったところもp_{\rm AA}p_{\rm AA}と書くことで、左のp_iはお父さん達の、右のp_jはお母さん達の血液型の割合のように見えてきませんか?


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知らない方はご勘弁ですが(大半かもしれません...)、二次式は大学初年度で習う線形代数の二次形式(二次形式 - Wikipedia)という言葉を使えば、ベクトルと行列を使って簡単に書き表すことができます*6。ベクトルはお父さん、お母さん世代の血液型の割合、行列はAA、AO、BB、BO、AB、OO それぞれに固有な定数行列となります。

例えば次の世代のAAの割合(p_{\rm AA}^{+})は簡単にp^{\rm T}P_{\rm AA}pと書けます。複雑な係数たちはP_{\rm AA}という定数行列が中に閉じ込めてくれています。P_{\rm AA}は何も悪いことしていないのに、一身に面倒なものを全て抱え込んでくれております。そういった意味で私はP_{\rm AA}を次の世代のAA型の割合を司る定数行列と呼んで崇めています。


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他の血液型の割合を司る行列たちはこのようになっています。みんなありがとう。


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さて、P_{\rm AA}P_{\rm OO}のおかげで関数Fをこのように簡単に書くことができます。二次形式に慣れていない方は前述した二次式と全く等価ですので無理に理解する必要はありません。


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今回のテーマを再掲します。『血液型の割合はどうやって決まるのか?』に対しては関数Fが定まったので済みとします。Fがあれば原始時代の血液型の割合から、後の世代の血液型の組が全てわかるからです。

次に『日本の血液型の割合は今後変わっていく可能性はあるのか?』について考えます。


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今の世代と次の世代で血液型の割合が変わらないということは、今の血液型の割合にFを作用させても同じ割合が出てくることを意味します。血液型の割合がこのような条件を満たすとき、今後も割合が常に一定ということで「定常状態」と呼ぶことにします。


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前述した通り現在の日本では、AAが8%、AOが31%、BBが3%、BOが19%、ABが10%、OOが29%となっているので、p_{\rm AA}=0.08p_{\rm AO}=0.31p_{\rm BB}=0.03p_{\rm BO}=0.19p_{\rm AB}=0.1p_{\rm OO}=0.29です。日本の血液型の割合が今後も変わらない、つまり定常状態になっていることを確かめるためには、これらの割合の組にFを作用させて割合が変化しないことを確認すればいいのです。


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実際に計算して見るとこの通りほぼほぼ変わりませんでした!普通なら「日本人の血液型の割合は今後変わらないことがわかったぞ!」と喜びたいところですが、血液型の割合が変化していないということはなんとなくわかっていたことなので、このモデルの妥当性が示されたということで喜びたいと思います。

ただし、今後外国の方の移住が進んで血液型の割合に変化が出たり、「B型結婚禁止法」、「A型子供4人産むこと義務法」等前提条件が崩れるような意味のわからない法律が策定された場合は再度モデル作りが必要になります。


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ここまでで残っていたテーマ『日本の血液型の割合は今後変わっていく可能性はあるのか?』も解決しました。最後に私が気づいた神の意思と呼べるようなものを紹介したいと思います。


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当初の予想では原始時代の血液型の割合がわかれば、Fを作用していくことによって血液型の割合が変遷し、最終的に定常状態に落ち着くのであろうと予想していました。


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しかし実際にいろいろな初期値(原始時代の血液型の割合)を入れてシミュレーションしたところ、たった1回Fを作用させるだけで定常状態になることがわかりました。これは驚きです!

シミュレーション結果だけではなく、変数pを文字で置いて、F(F(p))F(p)が一致することを確認しているので、これは数学的な事実(定理と言ってよい?)です。F(F(p))に対して、P_{\rm OO}=1-P_{\rm AA}-P_{\rm AO}-P_{\rm BB}-P_{\rm BO}-P_{\rm AB}を入れることで、うまいこと4次の項が消えてF(p)になることが確認できます。ちょうど良い計算練習になるので、興味がある方は計算してみてください。


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この発見を別の見方でも解説します。まずUという血液型の割合の空間があった時に、この血液型の空間において定常状態となる血液型の割合の集合(つまり、F(x)=xを満たすUの元全体)を考えます。

F(x)は二次式なので二次曲面(二次曲面 - Wikipedia)のようになるかと思いますが、6次元空間なので図示できません。。。図の赤いところが定常状態の集合のイメージです。


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当初の予想では、Uに任意の点(初期値)を選ぶと、Fを作用させるにごとに点が移動していき、いつかは定常状態の赤い面に辿りつき、それ以降はFを作用させても動かない、となると思っていました。


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しかし実際にわかったことは、Uのどの点を出発点にしても、たった1回Fを作用させることで定常状態の赤い面に辿りつき、それ以降はFを作用させても動かないというものでした。なんとも驚きです!


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これはまさしく血液型の割合を安定させようという神の意思ではないでしょうか?生物学は疎いのですが、自然が作り出したものだけあって数学と同じく非常に美しく感じます。

実はこの内容を日曜数学会以前にもクローズな場で発表したことがあるのですが、発表後、聴講者の方から「これはハーディー・ワインベルクの法則(ハーディー・ワインベルクの法則 - Wikipedia)というものだよ。」と教えていただき、驚きました。リーマン予想への挑戦やラマヌジャンを見つけ出したことで有名なハーディーが、このような生物学の法則に関しても言及していたのです!そして私の前提もハーディー・ワインベルクの法則の前提と共通する部分が多々あり、「自分すごい!」と思いました。

数学では証明はできても、なんか不思議と感じることは山ほどあります。例えば、\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^2}=\frac{\pi^2}{6}などは証明を読めば成り立つことがわかりますが、なぜ突然\piが出てくるのか、なんで6なのか等不思議は尽きません。今回の神の意思も同様で、任意のpに対してF(F(p))=F(p)となることは確認しましたが、なぜこんなことが成り立つのか?血液型を司る行列たちにどんな秘密があるのかはわかっていません。一時期躍起になって挑戦しましたがわかりませんでした。血液型遺伝子がAとOしかない場合でも試しましたがやはり同様に成り立ったため、血液型遺伝子の種類が増えても成り立つと予想します。

と言うことで次の問題を投げかけて本記事を締めくくりたいと思います。誰かわかったら教えてくださいm( )m

誰か解いて問題
U=\{x \mid 0\leq x_i \leq 1, \sum x_i=1\}\subset {R}^nn次の対称行列P_1,\cdots ,P_nに対して、関数F\colon U\rightarrow Uを次式で定義する。
(F(x)の第i成分)=x^{{\rm T}}P_ix
この時、任意のx\in Uに対してF(F(x))=F(x)が成り立つようなP_1,\cdots,P_nの性質の必要十分条件を与えよ。


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*1:血液型の割合に関しては、下記のサイトを引用しました。uranailady.com

*2:2つの血液型遺伝子の組AA、AO、BB、BO、AB、OOは本来きちんと遺伝子型と書くべきですが、説明がしにくくなるので、今後これらも広い意味で血液型と書く事にします。

*3:以下、変数と呼びます。

*4:ここで結婚相手は血液型で選ばないという前提が効いています。

*5:お父さん、お母さんの血液型の組に対して何も重み付けせず足すことができるのは、2つ目の前提『どの血液型の組み合わせのカップルも平均して同じ数の子供を出産する』によるものです。

*6:ちょうどこの数式を考えていた頃、別件でガウス整数論の二次形式を読んでいたので「うぉー二次形式すごい!」となった思い出があります。ガウス整数論の二次形式はベクトル、行列の成分は整数の範囲の話になるため、これでもかというくらい全く別の数学です。